2009年9月17日

心は世界に旅をする Chapter 1


KOKIAがヨーロッパでコンサートを行なうようになったのは、2006年のこと。4年目を迎えた今年は前年までのフランス、ベルギーに加え、アイルランド、ポーランド、ドイツを加えた5ヵ国を回るというかなり規模の大きいツアーが実現した。その模様を収録したライヴ&ドキュメンタリー作品が『Wherever I am?world tour 2009 in Europe』である。今回はツアーの全体像について、彼女に話を聞いた。
 「どんなプロジェクトでも“これは3年で達成しよう”“これは2年で”と期限を区切るのが私のやり方なんですが、ヨーロッパ・ツアーの場合は5年計画だと思ってがんばってきました。まずは5年間、頑張って、ヨーロッパで活動するうえでの形式を作ろう、と。1年目、2年目あたりは“種蒔き”の時期だったと思うんですけど、4年目でやっと“この苗はもう、よほどのことがないと枯れない。手入れをすれば、もっともっと根を張ってくれる”という手ごたえがありましたね。顔見知りのお客さんも増えたんですよ。いつもライヴに足を運んでくれるスイスの男の子とか、カンヌから来てくれる女の子たちとか、ロンドンから来てるおじさまとか」
この映像作品から伝わってくるのは、彼女の音楽がヨーロッパにおいて、しっかりと浸透しつつあるという事実だ。ここ数年、日本のバンド/アーティストが海外で人気を得る例はかなり多いが、アニメーションとのコラボレーションなどに頼ることなく、純粋に音楽の力によって評価を得ているケースは本当に稀だと思う。じつはKOKIAは幼い頃から“日本だけではなく、いろんな国で歌いたい”という思いを抱いていたという。
「ヨーロッパでツアーがやりたいというだけではなくて、アメリカでもアフリカ大陸でも、日本にとどまらず歌を届けたいっていう思いはずっとありました。“KOKIAというシンガーはどういうシチュエーションで輝くんだろう?”ということを客観的に考えてみると、“愛をテーマにして、声の力で人に感動してもらいたい”というところに辿り着くんです。それはきっと、日本だけに限ったことではないだろうなって。このDVDを観ていると、自分でも“何ていい顔をして歌ってるんだろう”って思う瞬間があるんですよ。そんな幸せそうな自分の姿を見ていると、“ここで歌うことは間違いじゃないだ”って実感できるんですよね」
彼女の存在がヨーロッパで受け入れられている理由。その一つに豊かな音楽性があることは言うまでもないだろう。高校、大学を通して声楽を学んでいた彼女の音楽にクラシックの要素が含まれていることは間違いない。さらに彼女の旋律にはヨーロッパのフォークロアにも似た響きがあり、それもまた現地の人々の心を惹き付けるのではないだろうか。
「たぶん、ヨーロッパの雰囲気に合う曲もあるんだろうなとは思いますね。でも、アフリカに行ってもアメリカに行っても、同じことが言えると思うんですよ。私はいろんなタイプの曲を書きますけど、以前はそのせいで“何がやりたいのかはわからない”って言われることもあって、ずっと悩んでたんです。“ひとつに決めないといけないの?”って……。でも、そうやって幅広い曲を書いてきたからこそ、どこにいっても馴染めるのかもしれないですよね。J-POPという枠の中で納まることを窮屈に感じたら、外に出るしかないじゃないですか?! 以前、ニューヨークでゴスペルの人たちとセッションしたときも、スッと馴染んじゃったし(笑)。音楽だったら、どこの国でも通じる。それが私の強みだと思います」

音楽的な成熟、ヨーロッパにおける知名度の向上。さまざまな好条件が重なって実現した今回のヨーロッパ・ツアーだが、この旅は彼女にとって、肉体的にも精神的にも相当な負担を強いられる、かなりタフなものでもあった。DVDのなかで彼女が語った「健康でステージに立てる。それだけで幸せ」という言葉が、そのことを象徴していると思う。
「じつは去年、少し体調を崩したんですよ。一時期は“もう歌えないかもしれない”とまで思ったし、それは大きな不安としていまも残ってて。だから今回のツアーでも、体調管理にはすごく気を遣ってましたね。でも、それはいいことでもあると思うんです。いつ何があるかわからないと思えば、その日のステージに感謝できるし、心を込めて歌おうという気持ちも強くなるので。まあ、本番になったら集中しているので体調のことなんかぜんぜん考えないで、100%で歌っちゃうんですけどね(笑)。お客さんに“KOKIAの魅力って?”って聞いてみると(DVDには現地のオーディエンスへのインタビューも収録されている)“声がいい”っていう意見が圧倒的に多いんです。だから、いつも万全の状態でステージに立ちたいなって……。逆に言うと、声が出るっていうだけで何でも伝えられると思うんですよね」
また、ライヴ・パフォーマンスの模様だけではなく、バック・ステージでの様子、移動中のオフ・ショットなどがたっぷり収録されているのも、この作品の魅力だろう。
「ホントにズーッとカメラを回してましたからね。それこそ“お手洗いとか以外は、全部撮ってるんじゃないか?”ってくらい(笑)。でも、思ったほど気にならなかったですね。“1回1回のステージを大事にしたい”っていう気持ちが高まってるから、“カメラを気にしてる場合じゃない!”って。今までのライヴDVDは歌ってるところがメインだったから、これだけオフの映像が入ってるのは初めて。“今のKOKIA”の全部が観られると思いますよ」
取材・文/森 朋之(2009年9月)
【KOKIAの魅力に迫る3つの質問】
毎回、更新ごとに3つのQ&Aを紹介していきます。今回は……。
★好きな色は何色ですか?
A. 色……色はいっぱいあります。藤色。やまぶき色。ゴールドにこげ茶。身にまとうのに好きな色と、身を置くのに好きな色だと違ってくるので、本当にいっぱい。眺めるのに好きな色も違うし……。それくらい、色は私にとってとても大事なアイテムです。
★好きな本は?
A. ほん……これはなかなか難しい質問です。あまり本を読まないので。
自分を奮い立たせるために、今は岡本太郎さんの関係の本にはまっています。
★好きな映画は?
A. これはたくさんありますよ。私の映画好きはかなりのもの。詳しいというよりは、とにかく観ているという感じ。いくつかなんて絞れないけれど、今ふと浮かんだのは、『君に読む物語』『Out of Africa』。
【KOKIA LIVE DVD】
『WHEREVER I AM ~WORLD TOUR 2009 IN EUROPE~』
(VIBL-481/3 税込8,400円)
[収録内容]
【Disc.1】 START from Paris
【Disc.2】 GO around the countries
【Disc.3】 RETURN to my heart

■オフィシャル・サイト:http://www.kokia.com/
■ビクターエンタテイメント:http://www.jvcmusic.co.jp/-/Artist/A012051.html